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虎のお父さん 「お父さんとごほん」


「そこにすわりなさい」
ちゃぶ台の横、座った大きな体が威張っていた。固く大きな胸の前、これまた大きな腕を組んでいる。紺色の甚平から、黄色い毛がはみ出ていた。
こうして口を閉じ難しい顔をしていると、少しばかりおっかない。
ふんと、マズルの先、黒い鼻から息の塊が飛び出した。

ああ、久しぶりだな。
一番最近ではいつだったか、思い出しながら向かいに座った。
「父さん」
「うん」
「手を洗ってないんだけど」
しまった。
ぱちくりと大きく瞬きした目が、そう言った。父のヒゲがヒクヒクと動く。
「あ、洗ってきなさい!先に!」
「分かった」
ネクタイを緩め、洗面所を指差す父にうなづいた。

家に帰り、居間に今しがた入ってきばかりなのだ。昔から何度も言われてきたのだ、帰ったらまず手を洗いなさい、ごはんもおやつもその後だ、と。取り分け「えーせー」には厳しい父である。

「うぅぅ…さむっ」
冬の水が手に厳しい。よくもこんな気温で甚平なんて着られるものだ。ネコ科の筈なのに、どうしてああ寒さに強いんだ。
脂肪分。という言葉が頭に浮かんだ。

パシャリと水が跳ね人肌色の顔にぶつかる。鏡に映るヒト科の顔は、週中にしてはだいぶ明るい。今日はトラブルも特になく、平穏無事な一日だった。強いてあげるとするならば、帰り際先輩がまた飲みに誘ってきたことくらいか。
付き合いが嫌なわけでは決して無いが、しかしそう連日は付き合えない。先輩、彼女でも作ればいいのに。

「しかし、断るにしても、ちょっと言いすぎたかな」
またスーツ、駄目になりますよ。は、お腹を気にする先輩には酷だったかもしれない。事実なのだが。
クマ科にしても、先輩も少し食生活を考えるべきだ。

まあとにかく、父に付き合うくらいの余裕はあった。
「なんだか、結構久しぶりだなぁ…」
ああして腕を組んでいたが、あれは怒っているのではない。甚平を着ているのは暑いからではない。
アレは父の勝負服、に近いものだ。

「いつぶりだろ……父さんの、『格好いいお父さん』ごっこ」


「洗ってきたよ」
「うん」
肉球付きの手が台を叩く。ぽふぽふ軽い音が鳴った。
「ご飯をたべながら、聞きなさい」
「いただきます」
箸を手に挟み、感謝の一礼。体に染み付いた動きだ。外食の度先輩にからかわれるのは癪だが、年長者には受けが良い。
「あ、野菜のシチューだ、やった」
いやいや、やった、じゃない。
一応、今は父のお説教の時間なのだから、少しは付き合ってあげなければ。
父特製、ヒト科の口にぴったり合う大きめ野菜の温かシチューで舌を喜ばしている場合じゃない。
「………、うん今日のも美味いよ」
しかし、俺以上に笑っているのは父だった。ニコニコしながらこちらを見ている。目的を忘れている気がする。本当に、ご飯と、ご飯を食べているのを見るのが好きなんだ

「あ、そうだ、それでだな…えぇとだな」
腹三分目と言った所で、楽しそうに口を伸ばしていた父が、それを開いた。
ぽりぽりと白い顎を掻きながら、うんうんと唸っている。
どうやら目的を思い出したらしい。再びむつかしい顔をして、胸をエヘンと張った。

「けっこんは、まだなのか」
「え゛」

箸が止まった。
搾り出したような、妙な声が出た。

「……まだ、なのか?」
「………え、……まあ、……そりゃね…」
当たり前だよ。
「俺、付き合ってるヒトないし、今」
「む、むぅう……」

順番から間違っている。
それにしても急だ。急すぎる。今まで一度だって、それこそバレンタインデー、クリスマス、どれも料理作って笑っていただけのくせに。
まず、一応大人になっているという認識はあったのか。むしろそちらに驚く。

降ろした箸の先、がさりと小さく音がした。
使われたばかりの新聞だ。新聞?ちらりと、横目でテレビ欄を確認する。
ああ、あった。あった。
一時間半前の特集番組、あれだ。
『婚期を逃す』という単語が見えた。やめてほしい。父はすぐに不安に煽られるのだ。狭い我が家に、防犯グッズ用の収納スペースがあるくらいに。

「もうちょっと順序だてて考えてよ、結婚なんて…」
「それじゃそれじゃ、お付き合いするヒトを探しなさい」
軽く言ってくれる。それができないから、こうして父親と顔を付き合わせてご飯を食べているのだ。

結婚。自立。
この家からも、きっと出ていくのだ。俺が。
そう考えると、もやもやとする。柔らかい人参を口の中で何度も噛み砕く。
答えずにスープをすする姿を見て、父が焦ったように耳を動かした。

「モテない………か」
…心底心配そうに聞かないでほしい。
茶色いまゆげがハの字になっている。

「お父さん…そういえばあんまりモテなかった…」
ああ、そうだったんだ…。
いや、別に聞きたい情報ではなかったんだけど。

「会社には、いーひとはいないの…か」
だんだんハードルが下げられた気がする。
しかしどうなのだろう。そう言われるまで、考えもしなかった。
少し色恋沙汰というモノに対し、年の割に考えが足らないのかもしれない。
パッと、頭に同僚の顔を浮かべてみる。
…茶色い。なんというか、うちの職場は、色がおじいちゃんのお弁当箱のようだ。

まず、一番最初に浮かぶのが熊の先輩の事なのが問題だ。確かに、仕事に飯に休憩に、色々と世話になっている。しかしまあ、それはない。オスだし。
猪の課長。牛のチーフ。うち、オスが多い。しかも、なんか茶色とか黒とか。
「あの、いつも話している先輩はどうだ?」
「先輩オスだよ」
父も同じだったようだ。というか、家でする話も同性の先輩ばかりだったのか。これは心配されても仕方が無いのかもしれない。

しかし、
何かにつけて行動が極端な父のことだ、今はこうして尋ねるだけだが、『けっこんそーだんじょ』ならまだしも、『かならずであえるすてきなさいと』あたりに手を出されてはたまったものではない。
善意の暴走戦車。
とは叔父さんの言葉だが、的を射すぎている。
「そうだな…」
何か一つ、ブレーキをここでかけておかなければならない。

「…たとえばだよ、父さん」
「うんうん」
スープで濡れた白い顎が上下に動いた。
「…俺がさ、結婚したら」
くるくるとスープを回す。新聞がすぐ横にある。二人でいるとどうしても狭い部屋で、
「父さん、ご飯一人で食べるんだよ」
「え゛」
喉から声が出た。ピンと、のっそり大きな上半身が伸びた。
「な、なんで?」
「なんでって、そりゃ…」
そこからなのかと、さすがにうなだれる。
「結婚したら、その人と一緒に暮らすだろ、俺は」
「え、ええ、ええええ」
耳が垂れてくる。牙がカクカクと動いていた。
「……ここで暮らせばいい…、よぉ」
「俺はいいけど、俺が付き合うヒトはどう言うか分からないよ。それに三人は狭いよ」
「じゃ……、じゃあ…、小さい…種族のヒトと付き合えば………その…」
わがままを言っている自覚はあるのか、太い喉から出た筈の声は殆ど聞こえなかった。

せっかく甚平まで着て悪いが、今の父はすっかり借りてきた猫のようだ。
見せかけの威厳すら残っていない。
ああ、弱った。

「……俺、父さんのご飯が好きだから、もう少しはここで暮らすよ」
「う、うん。そ、それはそうだ!」
あ、機嫌治った。
ふぅんと、また背中が反対に反った。父の大きな背中は、元気のバロメーターだ。
「じゃ、この話は終わり、だいたい結婚なんて…」

早いのだろうか。

同期の友人には、まだつがいになっているヒトは誰もいない。しかし、一人だけこの年齢とさして変わらぬ時に、息子まで育てていたヒトを知っている。

父だ。
この目の前の、甚平の紐がすれて痒そうに黄色い毛を掻いている、この父だ。

自分にはできるだろうか。
あと数年で。

ろくに喋らない、終始物陰に隠れているような、血も繋がっていない別種族の子供に、何日も何日もニコニコ笑って、次から次にご飯作って。
そんなこと、出来るのだろうか。

子供時代から、思い出すのは、ご飯をまえにいただきますを言う事ばかりだ。
引き取られてからは、空腹の時なんて殆どなかった。
「やっぱり、おいしいごはんが、しあわせだからなあ」
古い記憶と同じ声で、目の前の父が声を出す。
とにかく、父のご飯が好きだった。おいしいと一言口にするだけで、満面の笑みになる父が大好きだった。

「父さん」
お義父さん。結婚もしないで、恋愛らしいこともなしに。若い日々をすりつぶしてスープにするような時間は、本当に楽しかったのか。結婚式なんて、父さんがよっぽど好きそうなイベントだろ。
「父さんは……、結婚…したかったん…」
息が詰まった。
できなかった。




「うん、お父さんな」
「え、…うん」
「モテなかった、あんまり」

そうでした。
「結婚式のケーキは作ってみたかったなあ、でっかーいの」
作る側なんだ。

「だけどいまは息子がいる、ふしぎだねえ」
ちっとも不思議なもんか。
「だから父さん、やった、って思った」
「なにが」
「息子がね、出来て」
やった。
か。
ああ、そうかあ。
「俺、……父さんの子だなあ」
「あたりまえだろおー」
バカだなあと、父さんが大きい口でわっはっはと笑った。

「そうそう、こんどなあ、このシチュー、てんちょーさんがお店にだそおって」
「へえ、よかったね、採用久しぶりじゃない」
コックさん。
まあ、父の天職なのだろう。



おわり


  1. 2012/04/14(土) 15:18:18|
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