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虎のお父さん


嫌な夢をみた。思い出せたのはそれだけで、台所で水を汲む頃にはどんな夢だったかも忘れてしまっていた。コップいっぱいに貯めた水を一息に煽る。夏の生ぬるい水は、却って体を火照らせた。気分が悪い。
「どうしたのか?起きたのか?」
黒くモジャモジャとした影がぬっと、側にいた。コップに僅かに残った水がシンクに飛び散る。心臓に悪い。
「と、父さん、夜中に気配消して動かないで、言ってるでしょ」
「あ、ああ、ごめん、ごめんよぅ」
その大きな背がまぁるく曲がった。困った顔で自分の鼻をポリポリと掻く。黄色と黒の混じった虎の毛色が、たった一つ点いた光源に僅かに舞う。
「吐いた?大丈夫か?」
肉球付きの大きな手が口を覆う、拭いてやろうという事だろう。やりたい事は分かるが、布巾もティッシュも持たずにブニブニした手で掴まれても困る。
「いいよ、大丈夫、一人で拭けるよ」
「そおか、えらいえらい」
口に置いていた手を、今度は頭に乗せられる。太い腕でぐしぐしされると、寝癖がこじれて頭がいたい。
「怖い夢みたか?」
「ううん」
図星だった。だけどもどうにも恥ずかしく、誤魔化して答える。
「そおか、じゃあ一緒に寝よう!こんやは!」
しかし息子の嘘で騙されることなどないのか、それとも何も考えていないのか、父はニコニコ笑って大袈裟に万歳した。
「……やだよ、夏だよ、暑いよ」
「えぇ…そ、そうかぁ」
へしょりと、丸い耳がしおれた。お父さんもじゃもじゃ過ぎるかなあと、パジャマから飛び出した腕を撫でる。可哀想だが仕方がない。事実なのだから。
ふわふわとした毛と、虎獣人の中でもさらに高い体温。これだけ揃われては、夢見るどころか、まともに眠る事すら難しい。
「それじゃあ…そうだ、ご本を読んであげよう!」
「え」
「ねるまで何冊でも読んであげるぞ!さ、何がいい」
畳んだ耳が再び立つ。父さん天才、といった顔だ。
「父さん」
「うん、なに、どれがいいかな」
「俺、明日あさイチで会議なんだよ…」

心底気だるげな声が出た。
肌色の指で、寝起きでまだチカチカとした目頭を押さえる。頭の中は明日の予定と、今からの睡眠時間で一杯なのだ。これ以上面倒を起こされては困る。
「……で、でもご本好きだろ」
「もう何年前の話だよ。いい?俺はもう大人。本なんて自分で読めるの」
説き伏せるように、浴びせるように、父に断りの言葉を投げる。
父、といって血は繋がっていない。当然だ。誰が見ても一目で分かる。父は大柄な虎獣人。見た目も性格も大違いだ。
「でも…、で…、でもだぞ…」
ネコ科の太短いマズルがパクパクと動く。鈍い頭であたふたと。
算数の問題を教わらなくなったのはいつ頃だろうか。父は獣人の中でも特に肉体寄りの成長をしている。口論ともなれば、言い返せることなど殆どない。
「それじゃ、俺寝るから、おやすみ」
二の句の前に、ぴしゃりと言い切ってコップを片付ける。ああと、父がパジャマ姿で狼狽した。

「大好きな恐竜のおはなしもあるぞぉ…」
そんな声が聞こえたが、構わず後ろ手に扉を閉めた。



なんであんな言い方したのだろう。
翌日、会議室。自己嫌悪のせいで、大事な席だというのに話半分だった。
ただとにかく苛立っていた。疲れていた。そこそこの仕事を任されるようになって、責任も出てきた。ようやく大人として、男として認められてきたのだ。それだというのに、ああして幼い子供にするように話しかけてくるから。だから。
そんな言い訳をする自分に、嫌悪感がより深まる。

大人になった。そう、こうしてスーツを着込んで会社勤めができるのも、父のおかげなのだ。種族も違うひねくれ者の孤児を、男手ひとつで、不器用な手で育ててくれた、父のおかげなのだ。
「おいこら、集中せんか」
「っ…!あ、ハイ、すいません…」
散漫としていた意識が、横にいた先輩の肘で戻される。小突いた、つもりなのだろう本人は。しかし熊の怪力、太い腕で腹を肘打ちされると、人間の体ではたまったものではない。今日の朝食を吐き出しそうになった。
朝食、そういえば、今日の朝は久しぶりにコンビニで済ませた。
早起きが得意な種族でもないのに、父はいつも食べ切れないほどの量の朝飯をつくってくれたものだ。
ずっと。ずっとだ。
それこそ幼稚園の時から、ずっと。父の料理は変わらず薄味だった。食べることが大好きな肉好きなくせに、父親だからといつも多めにおかずをよこしてきたものだ。

あの大きな手が好きだった。
幼い頃はよく父の懐に飛びつき、やれここは黄色い、ここは黒いと、飽きもせずに遊んでいた。
父はどう贔屓目に見ても、頭の良い獣人ではなかった。子育ても失敗続きだったらしいと、お隣さんによく笑われた。いつまでも子供のようで、そのクセ人一倍大きくて…。
「おいこら…!」
「ぶっ、す、ません」
だから吐くって。
腹を押さえながら、光るスライドへ目を移す。いい加減にしておかなくては、大人であることすらできなくなる。頭の中身を仕事に切り替え、ペンを握った。
『おとーさんは楽しいかー?』
『うん!お父さんってなんで僕よりもじゃもじゃなの?』
頭の片隅、無邪気な質問をした時のことを思い出した。
どんな気持ちだったのだろう。父は。



「ただいま」
靴はあるのに、返事はなかった。珍しい。どんな小さな声で言っても、あの丸い耳は決して逃さず、すぐに玄関まで迎えに来るのに。
やはり怒っているのか。それとも拗ねているのか。
テーブルにコンビニ袋を置くと、ザアザアとシャワーの音がした。
これもまた珍しい。父はあまり風呂好きという方ではなかった。それに加えて、近頃は四角い体が随分と丸みをおびてきた。背中の毛を綺麗に洗えないと、よく愚痴っては風呂から逃げていた筈だ。

…背中でも流してあげよう。
それで許されるとは思わないが、しかしせめてそれくらいはしたい。
「おーい開けるよー………え、と、父さんっ、なにしてんだよ!?」
「おわ、おっ、おかえり!!」
驚きながらも、父は習慣のようにおかえりと返してきた。しかし驚いたのはこちらの方だ。
「ば…、ああ、もうこれ、どうしたんだよ!?ここも!…ここもだ!」
父の体は濡れそぼっていてたが、それでも普段との違いは簡単に分かった。固く短い黄色と黒、そして白色の毛が、そこかしこでさらに短く刈り取られている。元から短いものを無理に切ったせいか、ハゲのようにぽさぽさに。ひどいありさまだ。
当然これは、いきつけの獣人床屋の仕事であるはずもない。
「自分で切ったの?なんで」
父の手からひったくるように鋏を奪う。
「な…、なんでも、ないぞ、父さんただ、あ、暑かったから…」
暑い。確かつい昨日言った言葉だ。
暗い台所で、父が腕の毛を見ていたのを思い出す。
「ご、ごめんな、父さん失敗した…」
耳どころか、尻尾すら元気がない。濡れて普段より細い、それでも丸い大きな体が小さくなる。

「……怒ってないよ」
昨晩されたように、今度は頭を撫でた。
しぼんでいた父の表情がすぐ明るくなる。ああ、単純だな。この単純な頭で、どれだけ息子の事に思いを割いているのだろう。
込み上げるもののままに、スーツのまま濡れた父の体を抱きしめた。
「ぬ、濡れちゃうぞ、だめだぞ」
「ごめんなさい、父さん」
ぐぅぅぅう、と、大きな音がした。安心したからだろうか、虎の白いお腹から。あ、と声を上げた父と顔を見合わせる。
「父さん、どれくらいお風呂入ってたの…?」
「え、ええ、っと……」
もう分からないくらい格闘していたのだろう。不器用な父らしい。
「…今日はね、たっぷり肉買ってきたんだ。あがって食おう」
「え、ほんとうか!」
脱衣所に掛けてある巨大なバスタオルを取り、父の体に被せて拭く。気持よさ気に、父の喉がゴロゴロと鳴った。

「…それとさ、今日は、ご本読んでもらいたいな、俺」
「ん、ん!!そうか!そうかあ!」
分厚いバスタオルの中から太い腕が伸び、また頭を撫でられた。お互いの腕が相手の体にぺたりと付く。
「どれがいいかなあ、久しぶりだな、なぁ、どれにする?」
まだまだ甘えっ子だなと、父は嬉しそうな顔で笑っていた。



  1. 2011/04/06(水) 22:22:04|
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