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虎軍奮闘 プロトタイガー 前編

清潔感のある真っ白な廊下の上、足早に、男が巨体を揺らして歩く。ずしんずしんと急かされるように、太い脚と逞しい腕が前後に揺れる。埃一つない廊下だが、そこには煙が尾を引いている、ようだ。
「あぁ…ちょっとっ、院内では走らないでくださいっ」
「え、…あ、俺っすか。だ、だはは…すんません…」
後ろからの声に、巨体が引かれ止められた。
走ったつもりはねえんだけどなあ。ぽつりと愚痴り、大きな背中を丸く縮める。短い頭髪をボリボリと掻く。三回に一度はこうして、医者に看護師に時には子供に、叱られ足を止められる。
ノッシと歩く性分と、はやる気持ちがいけないのだろう。人より大きな体は、それだけ動きを大袈裟に見せるものだ。
分かってはいるのだが、どうにも足を抑えられない。年甲斐もない、わくわくしてしまうのだ。

すっかり歩き慣れた院内を、今度は極端に杓子定規に、ぴしりと体を伸ばして進む。曲がり慣れた角、上り慣れた階段を上り、行き慣れた病室の前に着く。
埃っぽい作業着もう一度、パンパン叩いて汚れを落とす。
太い腕でどんどんと、白い壁を何度か叩いて、扉を開けた。
「入るぞー」
「まぁた、開けてから言う」
「ぁあー、わり、わりい」
先の叱られた様子と違い、まるで悪びれた様子もなしに扉を閉める。
「まあいいんだけどね、いらっしゃい」
「へい、お邪魔します」
さして広くはない個室の中、大きな白いベッドの横、備え付けのボロ椅子を引っ張り出して腰掛ける
「よっこらせっと。あ゛ー、どうもこの椅子は座り心地が良くねえなあ」
「コウさんがデカすぎるんだよ」
「うるへー」
ぐいと、生意気な口を叩く若造の頬を掴む。合っているだけに癪に障る。その通り、椅子が悪いわけではない。ただ、このドでかい尻には小さすぎるだけだ。
「生意気な口利きやがんのはこの口かぁおい…、…ん、おい、ちょっと顔色悪いんじゃねえのか」
「え…、ひょんな…。っと、…そんな、いつもこんなだよ…」
「駄目だぞ。ちゃんと食って、クソして、寝てねえと、治るもんも治らねえ」
言いながらぐしゃぐしゃと、中程度にまで伸びた頭を撫でる。広い掌でのそれは、撫でるというより押さえつけるようだ。看護師に見つかりでもしたら、もう一度怒鳴られるだろう光景だ。
「だって、ここんとこの病院食、あんまり美味くないんだよ」
「若ぇもんが好き嫌いなんかすんじゃねえ。体をデカくしたけりゃ、何でも食うもんだ」
偉そうに言って腕を組む。ふんぞり返る。
それから、ちらりと腹を見る。
太ましい二の腕の下、そこには腕に負けず劣らず太ましい腹が覗いている。偉そうに言ったものの、ここ最近はどうにも暴食がちだ。
「…そーだよなあ、うん。俺もしっかり食べれば、コウさんみたいになれっかな」
「あ、いや、まあ…、俺ぁ…極端な例だ、あくまで…」
汗を一筋垂らして、今更に言い淀む。これはこれで、結構困ることが多いのだ。
収まりの悪い尻を捩りながら、目線を僅かに泳がせた。

耕三がこの病室に、忠司の見舞い来るようになって、もう随分経つ。どんなに忙しくても、週に一度、もしくはそれ以上。この決まりきった病室に来ては、必ずこうして減らず口をたたきに来ている。
「リンゴ、剥いてやろうか?」
「いいよ、そんな。コウさん不器用なんだから」
「んな事ねえって、それくらい出来るようになってるっての」
「それに、リンゴが汗臭くなりそうだし」
「なんだとこのガキ!」
最初は鬱陶しがられもしたものの、今ではすっかり軽口の応酬も慣れたものだ。
楽しい時間になった。しかしそれだけ長く、この病室に閉じ込められているのかと思うと、居たたまれない気持ちに苛まれる。
いくつ季節を跨いでも、この病室は変りない。決まりきった毎日。真っ白い壁に囲まれ、真っ白のベッドで寝起きする忠司。その姿もまた、変わらない。
成人を間近に控えた若者だ、本来ならばもっとハツラツと、恋に勉学に、若しくは仕事にと、色々な事に挑戦しているのが正しい姿だ。こんなベッドに括りつけられ、むさ苦しいおっさん相手のおしゃべりが週に一番のイベントなど、悲しすぎる。
白い布団から覗く肌と体、それに顔、初見より尚幼くなったようにも見える。

「…で、どうだ、先生は何て言ってる?」
「また始まった。そんな直ぐには変わらないよ」
「ん、だ、だってよ…」
「頑張っては、いるんだけど、ね」
布団に隠れた足を見て笑う、そんな忠司に頭を掻く。難しい事は分からない。しかし、足の外傷と、それに伴う…神経障害。そんな事を教えられた。きっとあの足も、若々しく走り回っていたことだろう、本来ならば。
「なかなか、変わらないもんだよ…」
窓を見てぽつりと、乾いた声で呟いた。責めるようでない口調が、胸に痛い。
「ところで…コウさん。また怪我してるみたいだけど、今度はどこで転んだのさ?」
「あ!?あー…、いや。…何処…だったかなぁ…。あー、お、俺の話はいいんだ!そんな、その、そんなよりー…」
「なに」
「あ、新しく、綺麗な看護婦のネーちゃんは入ってねえのかッデ!」
今度は逆に、忠司のチョップが耕三の額に振り下ろされた。
「時々思うんだけど、もしかしてそれが目当てで病院来てない?」
「ば、ばっかやろう。俺は紳士的にお前のだな」
言いかけて、突然眉間に皺が寄った。低い声で騒ぐ、大きい口が引き締まる。
どこか抜けていた雰囲気を消し、椅子から強く立ち上がった。
「す、すまん、ちょっと、急用思い出しちまった」
「え、また?来たばっかりじゃ…」
「あー…、そう…またまた言うなよ…、分かった今度来るときはでっかいメロン持ってきてやる!な!」
「別にいいよ、そんな、来てくれれば」
控えめな言葉に、また胸を刺される。
自分以外の見舞い客を見なくなって久しい。歩くこともできず、やれる事もまるでない。近しい肉親と呼べるものすらいない。
責められたことは一度もない。しかし、彼がこんな事になったのは、全て自分の責任だ。
できる事なら、なんだってしてやりたい。しかし、今この時ばかりはここに居るわけにはいかない。

「そ、それとも、あれだ!メロン級の姉ちゃんの本のがいいか!買ってきてやるぞ!」
「また、始まった。えろおやじ」
しんみりしてしまわぬように、わざとおどけて耕三が、自分の逞しい胸を揉みしだいた。


扉を閉めて一瞬、おどけた中年の姿は再び消えた。
ぐいと、姿勢を低く落とすと、両足から地面に力が走る。その姿が、音も風もなく駆けた。
来る前の何倍かという速度で、白い廊下を駆けていく。しかし今度は、誰に叱られるでもなく、否、誰一人ぶつかつ事も気付かれることもなく。




ビルからビルへと、俊敏に跳ぶ一つの影。屈めた姿は丸く大きく、一見してその早すぎる動きには不釣合いだ。猫科の獣のようなしなやかなバネで、一つ一つの跳躍を音も無くこなしていく。
颯爽と動く巨体だが、しかし耕三の表情はどこか浮かない。
嘘が上手いと思わなんだが、それにしてもさっきのアレは酷かった。そろそろ疑われても仕方が無いだろう。忠司、アイツは割とぼんやりとしたタイプだからなんとかなっているが、ついている嘘は一つ二つではない。
自分をとっさに庇っての怪我だ。
そう言って耕三は、彼、忠司の見舞いを続けている。初めにそう聞かされたときはさすがに首を傾げていたが、事故のショックで記憶が混乱してんだよ、と無理矢理に納得させた。
半ば程度にしか、その言葉に真実はない。
耕三が原因、という事に間違いない。しかし元来、自分は庇われるような立場ではない。それはありえないのだ。

「ここだな」
考えも纏まらぬうち、目的の場所に到着した。この力の俊足はいいが、時折思考が付いていかないのは考えものだ。ボリボリと顎の無精髭を掻いて、ビル影から遠く、見下ろす。
お決まりの黒い影が、2…いや、30。それに一体の、肉食獣の骨を立たせたような外貌の化物。お決まりの編成だ。
今回も、分かっていることはろくに無い。そもそも、この異形の者達の出所も、組織立った動きも分からないのだ。分かっているのは、こいつらが人を襲い、仇なし、害をなすこと。ただそれだけ。
しかしそれで構わない。自分の仕事は考えることではない。尤も、しろと言われてもできないが。
やれることも、やることも、ただ、一つ。

「待ちやがれえええ!」
腹から大きく声を出し、敢えて視線をこちらに向ける。
幼い子供連れの親子を囲っていた戦闘員達が上を仰ぐ。昼の太陽の光の中、仁王立ちの四角いシルエットが写っていることだろう。
キィーキィと甲高い声を聞きながら、脚でビルを蹴り、遙か下へと飛び降りた。

巨大な体で風を裂きながら、耕三が両拳を強く握る。二の腕から全身へと、強く力を蓄える。
太く固い上腕二頭筋を体の横にピッタリ付け、肘から先だけを前に突き出す。そのポーズのまま、大声を張り上げた。
「変身ッ!」
そう響いたかと思うと、四角く太い肉体全体が淡く黄色く輝いた。
全裸かと、そう見間違うくらいにフィットした形の光が、黄色く発光をして体を包む。落下の風が絵のように絡みつき、オレンジがかった黄色の、そのむっちりとした肉体に流れるような黒線を描く。
虎柄。
黄色と黒に彩られたそれは、自然界の肉食獣同様の独特のフォルムを形成した。
顔には、その虎を模したマスクが、レスラー姿のように上半分をすっぽり覆う。
つい先までの作業着の中年は消え、そこには一人のがちぶとのヒーローの姿があった。

地上は間近、そこまで迫った所で、二の腕を振り上げ筋肉の形を見せる。その右腕が、雄々しく膨らむ。
「ぐおおぉぉぉおおおッ!!!」
戦闘員の密集する黒ずみに、拳ごとに落下した。
「ギギギィイ!?」
轟音と悲鳴。重く重り、辺りを揺らす。
殴る。そんな生易しいものではない。人型を紙切れのように吹き飛ばし、コンクリートを剥がし、地面を抉る。小さな隕石のような、そんな巨大な破壊力。
「どらああぁ!どぉおおけええ!!!」
高所からの落下も気にせず、戦闘員達の横っ腹を殴りながら、今度は横へ高速移動する。
引き千切り、叩きつけ、一直線に家族と怪人の間に割って入った。
「とっとと逃げろ!俺の背中側には、コイツら絶対に行かせやしねぇ!」
口早な礼を背中に受けながら、大声で指図する。広い背中をさらに広げ、腕を伸ばして敵から遮る。

「貴様、まぁた邪魔しに来やがったか!プロトタイガー!」
「るせえ!ヒトサマの邪魔してんのは、てめえらだろうが!」
プロトタイガー、忌々しいヒーローの名を低く呼び、口の骨をガチガチと鳴らす。その骨の開閉と対峙するように、ポキポキと、プロトタイガーも両手の骨を鳴らして答える。
「あのガキと親御さんは勿論、今日は俺の分の用事も含めて三人!おまけも付けて四倍分!きっちり侘ぃ入れてもらおうか!」
「ホザきやがれ、デブ野郎!このスカルウルフ様が、八苦の目に合わせてくれるわ!」
偉そうに大声を張るプロトタイガーだが、その視線は前だけを見ているわけではない。ちらちらと後ろに横目を流し、逃がした親子の行方を追う。
己に注意を引き、少しでも意識を市民達から離れさせる。それは、これまでの経験から身に付けた、ヒーローに最も大切な闘法だった。

(よし…これで…)
子供の手を引く親子の姿が、建物の影へと小さくなる。それを確認してようやく、ほっと小さな息を吐く。
「よそ見してんじゃねえ!ガラァ!」
しかし、その隙を逃すほど敵も甘くはない。
骨の集合体である体から、一本。一際に長い骨が突き出した。硬質な筈のそれが歪んで見えるほどの速度で唸り、プロトタイガーの腹と胸の間深くに鋭く叩きつけられる。
「ご、あ…!…がぁ……ぁ」
鈍い音と、低い呻き。
吹き飛ばされる。
誰もがそう思うだろう。重そうな体だが、それを遥かに凌駕する勢いの攻撃だ。
「さけ…、避けるまでもねえな、こんな棒遊び」
しかし耕三の、プロトタイガーの脚はその場で力み踏み留まり、がっしりと根を生やしていた。衝撃を受け流さずよりも、太い体で道を塞ぎ続ける事を選んだのだ。
伸ばされた骨の先、怪人を睨みつける。再び横目で、背後の路地裏を見る。そこに人影がないことを確認して、小さく笑った。
「ぐおらあああらあああッッ!!」
腹に食い込んだその骨を、プロトタイガーの大きな手がむんずと掴む。
「な、ナニぃ…!?」
テコの原理も、力学も。そんなものは頭にはない。しかし、容赦をしなくていいと決まったプロトタイガーは、敵の想像を遥かに越えた力を生み出した。
戦闘員を巻き込んで、白い体を投げ飛ばし、骨型の体とコンクリートとが衝突する。ぶつかり合って、はじけ飛び、ガラガラ五月蝿い悲鳴を鳴らした。
散々使った手中の骨を、握力だけで微塵と砕く。
「オラ、ご自慢の武器はもう使い物にならねえぜ」
手を開くと、粉々になったそれが風に吹かれて何処かへ消えた。
「ようし、そこで大人しくしてやがて。とっととトドメと、…ぉ…ぉお、が……!」
近づこうとして、その得意げな顔が突如歪んだ。絞るような、中身を抉られるような、先以上に鋭く鈍い衝撃。それが、でっぷりと逞しく膨らんだ腹から込み上げている。
「カカカ、誰が、それ一本だっていったぁ…?」
もう一本。砕いたばかりのそれに酷似した棒。それが、左側から新たに生え、プロトタイガーの腹部に穿たれている。自在に動くそれは、突き出た腹をごりごりと抉って遊んでいる。
「が、がァ…、て…め゛ぇ…」
「カカカ!そぉら!もう一本だ」
怯んだその隙逃さず、もう一本。三本目は下から、足と足の間を通るように伸びる。そのまま骨がしなり唸って真上へ、必然当たるその場所は、もっこりと膨らんだプロトタイガーの股間だ。

「ごあ…。…ゲ…、ハッ…ガッ…!」
男として決して鍛えられない部位を叩かれ、ヒーローが無様に膝を付く。口からは胃液に近い吐瀉物が飛び出し、思わず両手で股間を握る。その、力の抜けたズッシリした肉体が、骨一本で持ち上げられる。
「お゛…お゛ろせ…えぇ…!」
細い骨に股から持ち上げられ、プロトタイガーが屈辱と苦痛で低く唸る。デカイ尻の割れ目、太い幹のような脚、たぷんと膨らむ股間。それらだけに重度の負荷を受け、持ち上げられているのだ。苦痛でないハズもない。懸命に歯を食いしばるが、そこからは涎が糸垂れ、顔からは脂汗が滲み出ている。
砕いてやろうと、己を持ち上げる骨を掴む。しかし、そうして隙ができれば当然、第二第三の打撃が待っている。スカルウルフが高く笑いながら骨を生み出し、プロトタイガーの全身をメッタ打ちにする。
「で!ッぐあ…、てめ…クソ!」
腕で防がなければ嬲られる。しかし防御すれば股間の膨らみが、ずりゅずりゅと前後に扱き抑えられてしまう。自らの体重を逆に利用され、苦痛と快楽を同時に植え付けられる。その行為を受けるしかない自分に、プロトタイガーの顔が羞恥に赤く染まる。
「あ゛…あ゛!…アア゛!」
「よおし、こっちのデカブツはまかせろ!おまえたちはさっきの親子を連れて来いッ」
「ギー!」
しかしその言葉に、乱されていた頭が奮い立つ。全身の痛みと、股間の熱を感じながらも、プロトタイガーがギリギリと奥歯を擦り合わせる。
「まぁだ動きやがるか!」
止めとばかりに、天高く、スカルウルフが骨を伸ばす。それが風を切りながら、プロトタイガーの脳天へと振り下ろされた。鈍い衝突音が、鳴る。しかし、
「やら゛…せるか…」
「ガ!?コ…コイツ、まだくたばらねェのか!?」
「やらせる……、かあぁアア……!!」

上がったものは、悲鳴ではなく獣の咆哮。
それに近い怒号を放ち、プロトタイガーが己を持ち上げる骨を砕いた。地についた脚、腕に、胸に、腹に、何発もの打撃を受けながら、それに厭わず突進する。
敵も負けじと、破壊に負けぬ速度で骨を生やし、叩きつける。一撃、また一撃。痛みが届く。しかしそれでも、その巨体は一向に倒れる気配も、心の折れる様子もない。叫びながら、ゆっくりと、しかし確実に歩を進み寄ってくる。
「何本でも、来やがれえ!!全部、全部へし折ってやる…」
「ガ…ガラッ!く、来るな!!」
「…砕けろ、こん…っちくしょおおぉォォオオッッ!!!」

骨を突き砕きながら、プロトタイガーの牙、右腕が、スカルウルフの顔面を粉砕した。


「…イッテ…、砂ァ食っちまった…」
胡座で座り込んだヒーローが、涎を拭い、頭を掻く。
砕いた骨と、着地で付いた砂埃で、何時の間にやらスーツの黄色は土色をしている。全身がでこぼこに成型されなおしたように痛む。
怪人と戦闘員、全滅。それは確かに確認したが、しかし変身も解かず、動こうともしない。疲れているから、というのもあるが、本当の理由はそれだけではない。
「クソ、さっさと収まれよ…ボケェ…」
むっちりした太もものの交差で隠しているが、ヒーロースーツの股間が半ばに膨らんでいる。中途半端な刺激で勃ち上がってしまったのだ。これでは、変身を解くことも、立ち上がることも出来ない。万が一見られでもしたら、そう考えて大きな体をますます小さく丸める。
「た…たまには…何かシとかねえと、まずいか…」
気がつけば、忙しさのあまり自慰もしていなかった。だからだろうか。
胡座姿のヒーローは、一人思い出し顔を赤くしていた。




「あ゛ー、いってェ」
ひとり住まいの汚い畳の上、下着姿で耕三が唸る。
変身を解いてしまえば、素顔はどこにでもいる普通の独り身男だ。人知れず闘う耕三には、賞賛も報酬もありはしない。記録として残るのは唯一、この生々しい傷口だけだ。
「ヒーローも楽じゃねえよな…。おーいて。まあ、ここなら忠司のヤツにも分かんねえだろ」
いかにスーツに守られていても、過剰のダメージは耐えられない。青アザ、切り傷、擦り傷他。この年になって生傷が絶えないというのは、人に見られれば誤解の種になるだろう。幸い、裸を見せる相手もいないが。いや、やはり、良くはない。
「ま、仕方ねえやな…。やるって決めちまったんだ」
しかめっ面ながらにそれだけ言って、それ以上暗い考え事はしない。考えることは得意ではない。というのもあるが、それ以上に、あんな光景を二度とは見たくない。ただそれだけだ。
「忠司のヤツ、またちょっと痩せたんじゃねえのかな…」
忠司との初めての出会い、それは、プロトタイガーの力を手に入れてすぐの事だった。力を手に入れてしばらく、そのあまりの大きさに増長していた、あの時。
思い出すのも恥ずかしい、そして腹立たしい、あの時の自分。


打てば響く。とでもいおうか。
怪力と言えばそれだけだが、シンプルな力は単純一途な耕三の性格に最も相性の良いものだった。
近くにきたら殴れば良い。遠くにいれば投げれば良い。
たったそれだけ考えて、力の限り「正義」を執行する。
「どうりゃああぁああ!!!」
その日も変わらず、プロトタイガーは雄々しく叫び怪人の骨を粉砕した。頭を失い慌てる雑魚共が、散り散りになって逃げ去っていく。
最初の数回は逃げられていたが、闘いに慣れた今これを見逃す理由もない。近場にいる者から、猛る剛腕で薙ぎ倒す。
「待ちやがれえコラァ!…こんの…逃がしゃしねえぞ!」
駆け行く後ろ姿を見て、瓦礫の破片を持ち上げる。破片といえど、子供の背丈程あろうかという大きさだ。それを、逞しい肩にどっかり乗ける。
「ふん!!ぬおらあああ!!」
全身をバネねように利用し、背中を向ける戦闘員へと轟音と共に投げつける。
脳天に見事直撃、奇っ怪な声を上げて戦闘員が倒れこむ。そこまでは、想像通り。しかし、
「ギギイー!?」「うわぁああっ!」
上がった悲鳴は、一つではなかった。

「…え」
戦闘員は、逃げたのではなかった。それに気がついたのは、物陰に隠れていたであろう青年が、瓦礫の破片で全身を打たれていたのを見てからだった。
「ま、まさか今ので!?お、おい…大丈夫かッ!?」
倒れた青年を抱え起こすが、返事はない。顔色が青ざめているのは、決して土煙のせいだけではないだろう。
放っておいても、いずれは襲われていた。逃げたように見えた戦闘員の間近にこの青年はいたのだ、最悪命の危機だったかもしれない。しかし、そんな事は言い訳にもならない。言い訳にできるような人間でもない。
あの時、慎重に、ほんの少しでも周りを気に掛けていれば、あるいはこんな結果にはならなかったかもしれない。この青年を傷つけるような、ヒーローとしてあってはならない事をせずに済んだかもしれない。
「おい!…おい!そんな、…お、俺は……おれ…は…こんな…」
自分が力を持つ者である自覚。自制。そして責任。
そのどれも、まるで足りていなかった。
「だ、誰か!…そうだ、救急車…、いや、病院…!俺が運んだ方が…!」
目を覚まさない青年を抱え、プロトタイガーが四角い体をスッと立たせた。
「すまねえ…!待ってろ、すぐに、絶対すぐに助けて…やるからな…!」
どんな敵の前で出したことのない、震えるような弱い声。そんな声で精一杯に励まして、プロトタイガーの体が大地を蹴った。


「忠司、今頃、もう寝たかな…」
もう何度思い出したかも分からない光景を描いて、呟く。思い出したくもない。しかし、覚えていなければならない。あの記憶。
あれ以来だ、忠司との関係は。自分がしている見舞いなど、贖罪にはまるで足りていない。何もしない訳にはいられないから。そんな勝手な思いもある。だが今ではそれ以上に、一人の友人として彼の回復を望んでもいる。心から。
いつかアイツの足が治ったら、動けなかった分あっちこっちと連れ回してやる。ご当地名物で腹を膨らして、観光名所で写真をとって。きっと鬱陶しがられるだろうが、それでもきっと楽しいだろう。
「待ってろよ。…いや、違うな。いつまででも待ってやる」
そのためにも、自分は世界の平和を守っていかなければならないのだ。美しい場所、楽しい場所。それをアイツに見せてやるためにも。
たとえ、どんなにボロボロになろうとも。
男らしく、グッと握った拳に誓う。傷は痛いが、なんてことはない。

「…に、しても…。だ、大丈夫だよな…、ここ…」
握っていた拳を解いて、ポツリと呟く。キっと締まっていた顔が緩み、心配そうに下を向く。
解いたばかりの手でそっと、唯一身に付けたブリーフの中身を摩る。精力を司る二つの玉と、皮に覆われた一物を撫でる。
「ん…ぅ」
優しく二度三度と手を返せば、それだけで敏感な性器はむくむくと形を変えだした。
思い返せば、長いことコイていない。
「いや、が、我慢だ…ガマン…!」
しかし、シたい時にシて良い立場ではないのだ。正義のヒーローの仕事は、不定期に訪れる。余程体力に余裕がある日でなければ、精を蓄えておかなければ、いつ始まるかも分からない闘いに臨めない。
「うぅ…ボロボロにされるよか、辛いかもしれん…くそ」
悶々とした気持ちを抱えたまま、耕三はふて寝とばかりに布団を被った。


白いビニール袋から、緑の果物はみ出させ、のっしのっしと足高く、中年オヤジが闊歩する。
メロン買ってきてやるぞ、そう簡単に言ったはいいが、まさかこれ程高価なものだとは思わなかった。痛い出費だった、本来ならば薄くなった財布同様、力無く歩くのが小市民だろう。
しかしそれでも耕三に、悪い気持ちは微塵もなかった。少し遠出はしたが、その分特大の物を選んで買ったのだ。案外と、飛び上がって歩き出すんじゃないのか。そんなバカなことまで考えて、流石にないかと自分を笑う。

ぞわりと、体の中を影が通る。そんな感覚。

何度感じても慣れない不快感。何故今なんだと、何度思ったか分からない言葉を、今日はとりわけ強く思い出す。
敵だ。
奴らだ。
考えるまでもないことを改めて思い、頭を瞬時に切り替える。頭中のコンパスで方角を感じ取り、荷物を抱えて走り出す。
地図として分かるわけではない、しかしヒーロー・プロトタイガーには敵の暴れている位置が感覚として掴んで取れる。その方角に、跳ぶように走る。駆ける。
ビルの上、家屋、その屋根。いつもならば道ならざる道を行くのが普通だが、しかしその日は勝手が違った。走りづらいのではない、走り易すぎるのだ。最短の道を歩いているはずなのに、駆け抜けていく通りや商店街が、いつまでたっても見慣れたものを逸しない。
(まさか…そんな…)
変身後ならば何十キロと走っても流さない汗を、一筋垂らす。
「…変身…ッ!」
全身に黄色い光と、黒い影が走る。むっちりした全身をスーツが包み、体は更に加速した。

「そんな…、なんで」
煙の立つ場所、そこに辿り着いて改めて、耕三は低く声を漏らした。
「なんで、ここなんだよ…畜生…」
見慣れた道に感じたのは当然だ。その通り、見慣れた道を走ってきただけだったのだから。
煙を上げているのは行き慣れた、いつもの病院の中からだった。

(た、忠司は、アイツは!?)
逃げられたのか、逃げられるのか、あの脚で…。
言いようのない寒気が体を巡る。しかし、ただ一人だけを気に掛ける事など、ヒーローには許されない。上がる悲鳴を目印に、太い脚を踏みしめる。
瓦礫を退かし、炎を吹き飛ばし、戦闘員を叩きのめす。普段のプロトタイガーの何倍か、一般人の何十倍かという速さで退路を作る。無理に動く体からは汗が滴り、筋肉が悲鳴を上げる。それでも体を休める事はない。

院外の民間人を逃がし終え、ようやくと病院の中へ駆けていく。
逃がした人影の中、忠司の姿はなかった。俺が見逃すわけがない。それなら…。
「忠司、ただしいぃぃいい!」
悲鳴に近い声を上げ、行き慣れた病室の前まで走る。唯一開いていないその扉を、癖のように強く叩く。普段の馬鹿力以上のものがあるはずなのに、扉は歪んでガタつくばかりだ。開けられた形跡は、誰かが逃げた形跡はない。その扉を蹴って破る。
(まぁたー。ちゃんとノックしてよー)
「忠司ッ!」
少し困ったように、しかしいつも笑って迎えた姿。その顔のあったベッド。
それは、ボロボロの板片になって、転がっていた。
茶色い汚れと、醜い焦げ跡。壁のあった場所には空が覗ける程の穴が開いていた。
「あ、ああ、ああああ…」
ひゅうひゅうと、風のように口から息が漏れる。体が急速に冷えていく。

「ガガラガラガララ!遅かったな、プロトタイガー!」
壁にぽっかり空いた穴から、鳥型に骨を積んだ怪人が笑いながら姿を現す。
「どうした、随分顔色が悪ぃ……、…ガ!?」
言い終わる、までの時間は与えられなかった。悲しげなヒーロの、鬼の形相。それが怪人の視界が最後に映したものだった。


「こんな…、こんなくだらねぇ雑魚に…っ」
激しく動いた後、全身から垂れた汗で体は急速に冷えていく。しかしそれとは反対に、心の芯は熱く激しく燃えていた。しかしぶつけどころもないそれは、虚しくプロトタイガーの中で燃えるだけ。狂ったような炎は、プロトタイガーの、耕三の心と体を自虐的に燃やして焦がす。
「ただ、し……ぃ」
ゴミクズ同然となったベッドを、大きな掌ですくう。そんな作業も、ただ虚しいだけ。
守れなかった。
肝心な時に、何もしてやれなかった。一番大切な友人も守れなかった。
「あ、ぁぁ……」
広い背中が小さく丸まり、子供のように弱く震える。
低く濁った嗚咽が、逞しい首からいつまでも響いた。


続く

  1. 2010/05/23(日) 19:40:57|
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